こんにちは。株式会社サンミライ開発、不動産事業部の藤木です。
古い家が建ったままの土地(古家付き土地)の売却は、建物のない土地の売却とくらべて、決めることが一つ多くなります。建物をどうするか、です。この記事で紹介する裁判例も、多くは、建物をどうするかや、建物を解体したあとの地面のことをめぐって起きたものです。
結論から申し上げます。トラブルが起きやすいのは、①契約のあとに「やめたい」と思ったとき、②引き渡しまでの間にお隣との境や地面の下で何か見つかったとき、③引き渡しの日に約束の状態や日にちに間に合わないとき、④引き渡しの後に地面の下から何か出てきたとき、の4つの場面です。
どれも、契約書に「何を・いつまでに・どうするか」を書いておくことで、防げる部分があります。この記事では、公表されている裁判例と国民生活センターの注意喚起をもとに、場面ごとの備えをお伝えします。
🗺️ トラブルが起きやすい場面は4つあります
契約から引き渡しの後までを、時間の順に並べると次のようになります。

なお、紹介する裁判例の多くは、業者や法人が当事者の取引です。個人の方の売却に、同じ結論がそのまま当てはまるとは限りません。
✋ 場面1:契約のあとに「やっぱりやめたい」
売買契約は、署名したら自由にやめられるものではありません。手付(契約のときに買主から売主へ渡すお金)を払った売買では、相手が契約の実行に取りかかる(履行に着手する)までは、買主は手付を手放すことで、売主は手付の倍の額を実際に差し出すことで、契約を解除できます(民法第557条)。
何が「履行の着手」に当たるかは、最高裁の示した基準で判断されます。外から見て分かる形で、約束の実行の一部を始めたか、実行に欠かせない準備をしたか、という基準です(昭和40年11月24日大法廷判決。RETIO の論考による)。ただ、特に約束の日より前の行為が当たるかどうかは事情を総合して決まるとされ、一概には言えません。更地渡しの取引で、売主が解体を始めたことが着手に当たるかどうかも、ここから一律には言えません。
そのため契約書では、手付で解除できる期限を日付で決めておくことがあります。全宅連(全国宅地建物取引業協会連合会)の資料によると、売主・買主とも個人の場合の同会の売買契約書は、相手方が契約の履行に着手したときと、決めた期限を過ぎたときの、いずれか早いほうから手付での解除はできない形になっています。その後にやめようとすると、契約違反として扱われ、決めてある違約金を求められることがあります。相手が契約どおりの実行を求めることもあります(不動産適正取引推進機構「不動産のQ&A」)。
違約金の額は、当事者の合意で決めます。全宅連の同じ資料は、個人どうしの売買について「一般的には売買金額の10~20%と設定することが多い」と説明しています(統計ではなく、団体としての説明です。全宅連「不動産取引に係る解約料等について」・令和6年8月9日)。契約で決めた違約金は、損害賠償の額をあらかじめ決めておいたもの(賠償額の予定)と推定されます(民法第420条)。署名の前に、額を確かめておきたい数字の一つです。
業者に直接売る契約に、クーリング・オフはありません
国民生活センターは、高齢の方の自宅の売却トラブルについて注意を呼びかけています。消費者が自宅を不動産業者に売る契約には、宅地建物取引業法のクーリング・オフは使えず、契約が成立すると無条件では解除できません。紹介されている相談の中には、業者の勧誘で自宅マンションの売買契約に署名し、翌日に電話で取りやめを申し出たところ、約900万円を払ってほしいと言われた80歳代の方の例もあります(国民生活センター「高齢者の自宅の売却トラブルに注意」・令和3年6月24日)。
また、個人の方が事業者と結んだ契約では、個人の方が払う違約金などのうち、同じ種類の契約の解除で事業者に通常生じる損害(平均的な損害)の額を超える部分は無効になる、という決まりもあります(消費者契約法第9条)。何が平均的な損害かは、事情ごとに判断されます。
買い取りの話は、その場で決めなくてかまいません。業者から直接の買い取りを持ちかけられたら、その場で署名せず、ご家族やほかの会社の意見を聞いてから決めても遅くありません。買い取りと仲介の違いは空き家の買取と仲介の違いでお伝えしています。
🧱 場面2:引き渡しまでに、お隣との境や地面の下で見つかる
契約の後や、建物を解体して初めて分かることがあります。お隣の屋根や配管が敷地にはみ出していた(越境)、地面の下に古い基礎やがれき、使われていない配管が残っていた、といったことです。
個人の売主が宅建業者に土地建物を売った取引で、契約の後に、隣地の建物の屋根や電線が敷地にはみ出していることが分かり、引き渡しの日を2度延ばした例があります(はみ出しは隣地の側が直しました)。その後、地中の埋設管の越境も分かり、売主はこれを解消して、決済の準備を整えました。ところが買主は代金を払わず、売主は内容証明郵便で支払いを求めたうえで契約を解除しました。裁判所はこの解除を有効として、買主に売買代金の10%にあたる違約金の支払い義務を認めました(東京地裁平成30年3月13日判決。2020年4月の民法改正より前の契約。RETIO の機関誌の紹介記事による)。
この例は、売主が越境を解消し、約束どおり引き渡せる準備を整えたうえで、手続きを踏んで解除したことが前提になっています。何か見つかったときに、誰が・いつまでに・どう直すかを話し合えるよう、契約の前にお隣との境や地中のことを確かめ、分かっていることは伝えておくことが大事です。
古い建物には、石綿(アスベスト)を含む建材が使われていることがあります。石綿は2006年(平成18年)9月から製造や使用などが禁止されていますが、それより前に着工した建物には、防火・保温・断熱などの目的で使われている可能性があります(厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト)。解体の前には、元請業者が事前に調べて、結果を発注者に書面で説明します。吹き付けの石綿や、石綿を含む断熱材・保温材・耐火被覆材が使われている建物では、その作業を始める14日前までに発注者が届け出る必要があり、日程に響くことがあります(大気汚染防止法)。
解体の届出や段取りの順番は現況渡しと更地渡しの違い|誰が何をするかでお伝えしています。
🚧 場面3:引き渡しの日に、約束の状態・日にちに間に合わない
更地渡しの契約では、売主は引き渡しの日までに解体を終え、約束した状態にしておく必要があります。間に合わなければ、約束を果たしていない(債務不履行)として扱われることがあります。
民法では、相手が約束を果たさないとき、相当の期間を決めて求め(催告し)、その期間内に果たされなければ解除できます(第541条。期間を過ぎた時点の不履行が軽いときは除きます)。決まった日時や期間内に果たさなければ契約の目的が達せられないときは、催告なしで解除できる場合もあります(第542条)。
建物の借家人との立ち退きの話し合いがまとまらず、約束どおり更地で引き渡せなかった取引で、手付金の返還と違約金の支払いが認められた例もあります(争われたのは、違約金を免除する合意があったかどうかでした。東京地裁令和元年6月24日判決。法人が当事者の取引。RETIO の紹介記事による)。紹介記事の解説者は、借家人の立ち退きや隣地との境界の確定のように、第三者との合意が必要なことを売主の義務とする場合は、売主はそのリスクを十分に認識して契約すべきだと述べています。
更地渡しの引き渡しの日は、解体の工期だけでなく、家財の片付け、届出、建物滅失登記、そして立ち退きや境界のような第三者の事情まで見込んで決めます。余裕のない日付は、売主の方の負担になります。
🕳️ 場面4:引き渡しの後、地面の下から何か出てきた
地面の下のことは、売る方にとって見通しにくいことの一つです。建物を解体して更地にしても、地面の下のものは目に見えません。
民法では、引き渡した土地が、種類や品質の点で契約の内容に合わないとき、買主は売主に、直すこと(追完)などを求められます(第562条)。買主が合わないことを知った時から1年以内に売主へ知らせないと、原則としてこの権利を使えなくなりますが、売主が引き渡しの時に知っていた、または重大な過失で知らなかった場合は別です(第566条)。
売主が解体して更地で引き渡す約束で、契約書に地下室も撤去の対象と書いてあった取引で、引き渡しの後、地中から地下室の躯体と、解体で出た鉄筋・コンクリートのがれきが見つかった例があります。裁判所は、解体業者が撤去しきれずに埋め戻したと認め、解体業者の不法行為責任と、売主の債務不履行責任の両方を認めました(東京地裁平成29年10月3日判決。売主・買主・解体業者とも法人。2020年4月の民法改正より前の契約。RETIO の紹介記事による)。
解体を業者に任せても、買主との約束(何を撤去して引き渡すか)は売主の方に残ります。解体を請け負う立場からも、何を撤去する約束なのかを、売買契約と解体の見積もりの両方で揃えておくことが大切だと考えています。
「責任は負わない」と書いたつもりでも、書き方によっては土地に及ばないことがあります。土地付き倉庫の売買で、契約書の担保責任の条文を「破棄する」とし、建物は「現況建物で売買する」とした特約について、裁判所は、条文を破棄するとは民法の原則に委ねる意味だと読み、少なくとも土地については責任を免れる趣旨が明示されていないとして、地中から出た杭やコンクリートの塊の撤去費用などの支払いを売主に命じた例があります(東京地裁平成28年4月13日判決。売主・買主とも宅建業者。2020年4月の民法改正より前の契約。RETIO の紹介記事による)。
また民法には、責任を負わない特約をしても、知りながら告げなかった事実については責任を免れない、という決まりがあります(第572条)。
売るときに売主が書く告知書(物件状況等報告書)は、売主が知っていることを買主に伝えるための書類です。地中の浄化槽などをめぐる裁判例の紹介記事の中で、RETIO の解説は、告知書は売主が知らないことまで保証するものではなく、実際にあった場合の分担は売買契約の担保責任の決まりで行われる、と述べています(東京地裁令和4年11月22日判決の紹介記事。2020年4月の民法改正より前の契約)。
建物付きで売る場合は、建物の不具合も同じ話になります。国民生活センターは、自宅を売った後に、雨漏りやシロアリの被害などを理由に不動産業者から修理費用を請求されるケースがみられるとして、売主がどんな責任を負うかは契約条項で定めてあることが多いので、契約のときに確かめるよう呼びかけています。
売主の方にできるいちばんの備えは、知っていることを、小さなことでも告知書に書いて伝えること、そして地面の下から何か出てきたときの扱い(誰が撤去するか・いつまでに知らせるか)を、契約書で決めておくことです。地面の下のものを見積書でどう扱っているかは更地渡しはどこまで?庭木・ブロック塀・地中のものでお伝えしています。
✅ お手元の契約書(または案)で、確かめる所
契約書が手元にある方、または案をもらっている方は、次の所に印をつけてみてください。まだの方は、署名の日より前に案を見せてもらいましょう。分からない言葉が出てきたら、それがそのまま、署名の前に聞く質問になります。
契約書で印をつける所
契約書の読み方は、署名の前に、仲介する不動産会社に遠慮なく聞いてください。
❓ よくあるご質問
Q. 引き渡しの後、買主から「地中から出た物の撤去費用を払ってほしい」と言われたら
まず、契約書の「契約の内容に合わないとき(契約不適合)」の条項と、知らせる期間の定めを確かめます。民法では、種類や品質の不適合は、原則として買主が知った時から1年以内に売主へ知らせる必要があります(第566条)。そのうえで、見つかった物が契約で撤去を約束していた範囲に入るのか、告知書にどう書いたのかを整理します。その場で支払いを約束せず、仲介した不動産会社に相談してください。
Q. 「現況のまま、責任は負わない」と書けば安心ですか
書き方と中身しだいです。上の裁判例のように、担保責任の条文を「破棄する」とした特約が、責任を免れる意味とは読まれず、土地には及ばないとされた例があります(業者どうしの取引)。また、知りながら告げなかった事実は、責任を負わない特約をしても免れません(民法第572条)。安心のためには、知っていることを伝えたうえで、何についての責任を、どうするかを具体的に書くことです。
Q. 母が住んでいた家で、私は住んでいませんでした。告知書に書けることが少ないのですが
住んでいなかった方が、家のことをすべて知っているとは限りません。ご家族に聞いて分かることを書き出し、分からないことは「分からない」と伝えておきます。RETIO の解説は、告知書は売主が知らないことまで保証するものではないと述べていますが、「何も書かなければ安心」という意味ではありません。
Q. 揉めたとき、仲介の会社以外に相談できる所はありますか
福岡県内なら、福岡県宅地建物取引業協会の不動産無料相談所があります(電話 092-631-2103・一般消費者専用。平日10時〜12時、13時〜15時。予約は行っていないとのことです)。相談した方への助言が目的で、相手方への注意や指導は行っていません。ほかの相談先は空き家・実家の相談先の記事でお伝えしています。
📝 この記事のまとめ
- トラブルが起きやすいのは、契約のあと・引き渡しまでの間・引き渡しの日・引き渡しの後の4つの場面です
- 手付で解除できる期限と違約金の額は、署名の前に確かめます。業者に自宅を直接売る契約に、クーリング・オフはありません
- 更地渡しの引き渡しの日は、解体の工期だけでなく、届出・登記・第三者の事情まで見込んで決めます
- 解体を業者に任せても、買主との約束は売主の方に残ります。地面の下のものの扱いは、契約書で決めておきます
- 知っていることは、小さなことでも告知書に書いて伝えます
古家付き土地を売るときに読む3本(この順がおすすめです)
① 現況渡しと更地渡しの違い|誰が何をするか ― 渡し方を選ぶ
② 更地渡しはどこまで?庭木・ブロック塀・地中のもの ― 撤去の範囲を決める
③ 古家付き土地の売却で起きやすいトラブル|防ぎ方(この記事) ― 契約書を確かめる
ご家族の思い出が詰まった家を、次のオーナー様へ気持ちよく引き継げるように。当社が仲介する場合は、契約の前に、解体の段取りと契約の条項の関係を整理してご説明します。
本記事は2026年度の制度に基づく解説です。最新情報は各公式サイトでご確認ください。本記事で紹介した裁判例は、不動産適正取引推進機構(RETIO)の機関誌『RETIO』の紹介記事によります(判決の要旨は同機構の職員によるまとめで、判決の全文ではありません)。いずれも個別の事案についての判断で、同じ結論になるとは限りません。多くは業者や法人が当事者の取引で、2020年4月の民法改正より前の契約の例を含みます。民法・消費者契約法の説明は2026年9月時点の条文に基づく一般的な内容です。国民生活センターの資料は令和3年6月24日、全宅連の資料は令和6年8月9日のものです。個別の契約内容は、契約前に不動産会社からの説明でご確認ください。最終更新日:2026-09-25。
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