こんにちは。株式会社サンミライ開発、不動産事業部の藤木です。

古い家が建ったままの土地(古家付き土地)を売るとき、不動産会社から「現況渡しにしますか、更地渡しにしますか」と聞かれることがあります。言葉は聞いたことがあっても、何がどう違うのかは分かりにくいものです。

結論から申し上げます。いちばんの違いは、誰が解体を頼む立場(発注者)になるかです。更地渡しでは売主が発注者になり、解体の届出、家の中の物の片付け、建物滅失登記までが売主の側に来ます。現況渡しなら、それが引き渡しの後に買主の側へ移ります(家財の扱いは契約で、滅失登記は建物の登記の名義で決まります)。
そして、どちらを選んでも、「どこまでを、いつまでに、どの状態で」引き渡すかを契約書に書いておくことが、あとで揉めないための要になります。

解体費用を誰が負担するか、相続した空き家の特例がどう関わるかは、古家付き土地の解体費用は誰が払う?でお伝えしています。この記事では、手続きと契約書の側から整理します。

💡 「現況渡し」は、法律の言葉ではありません

まず言葉の確認です。民法には「現況渡し」という言葉はありません。近い決まりとして民法第483条があり、引き渡す物の品質を契約の内容や取引の常識から決められないときは、「その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない」とされています。ただ、これは物を引き渡すときの一般的な決まりで、売買の「現況渡し」の中身を決めているわけではありません。

「更地」には、国土交通省の不動産鑑定評価基準に定義があります。「建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地」です。ただ、これは土地の価格を評価するときの分類で、売買で「どこまで撤去するか」を決めるものではありません。

つまり、現況渡しも更地渡しも、中身を決めているのは契約書です。「更地で引き渡す」と書いても、庭木やブロック塀、地面の下の古い基礎をどこまで撤去するかは、書かなければ決まりません。範囲の決め方は更地渡しはどこまで?庭木・ブロック塀・地中のものでお伝えしています。

⚖️ 誰が何をするか

項目現況渡し(建物付きで引き渡す)更地渡し(解体してから引き渡す)
解体を頼む人(発注者)買主(引き渡しの後に、解体するかどうかも買主が決めます)売主(引き渡しの前に)
建設リサイクル法の届出(床面積の合計が80㎡以上の解体)買主売主(工事に着手する日の7日前まで)
アスベスト(石綿)の事前調査の結果の説明買主が、工事の元請業者から受けます売主が、工事の元請業者から受けます(原則として工事の開始の日まで)
家の中の物(家財)残してよいか、誰が片付けるかを契約で決めます解体の前に、売主が片付けます
建物滅失登記解体するときの登記上の所有者(建物の名義が買主に移っていれば買主)売主(登記上の所有者として)
建物の不具合の責任(契約不適合)建物について、どこまで責任を負うかを契約で決めます建物はなくなります。地面の下のものの扱いは残ります
一般的な整理です。実際の分担は、個別の売買契約で決まります。

表のうち「建設リサイクル法の届出」は、法律が発注者に求めている手続きです。「アスベストの説明」は、施主から直接工事を請け負う業者(元請業者)が発注者に説明する義務で、発注者は調査の費用を適正に負担するなどして協力します。

解体業者に頼めば手続きまで済む、と考えるのは自然なことです。ただ、法律で届出の義務を負うのは、工事を請け負う側ではなく発注者です。とはいえ、届出は行政書士に頼むこともできます(下のよくあるご質問で触れます)。

🧮 手元に残る額を比べる手順

現況渡しと更地渡しで迷ったら、次の順で数字をそろえると比べられます。見積書がまだ手元になくても大丈夫です。

手元に残る額を比べる手順

両方の売値の見込みを聞く

不動産会社に、現況渡しで売る場合と、更地渡しで売る場合の、それぞれの売値の見込みを聞きます。当社の経験では、現況渡しの売値は、買主が解体費を見込んで、その分が差し引かれていることが多いです。

解体の見積もりを取る

更地渡しにするなら、解体の費用は売主の方が払います。見積書は、合計だけでなく、下でお伝えする「別途」の欄も読みます。

手元に残る額を並べる

更地渡しは「売値 − 解体の見積額 − 別途の分の見込み」、現況渡しは「売値」。仲介手数料や税金は、どちらからも別に差し引かれます。

見落とされやすいのが、見積書の「別途」の欄です。当社の見積書では、合計のすぐ下に、見積もりの金額に入れていないもの(地面の下から出てくる古い基礎やがれき、残土のすき取り・埋め戻し、アスベストの撤去など)を並べています。2026年3〜8月に作った16件でも、地面の下から出てくる古い基礎やがれき(地下埋設物)の撤去は、16件すべてで金額に入れず、1台あたりの単価だけを書いていました。

別途の分が実際に要るかどうかは、現場によります。要ったときは売主の方の負担になることがあり、どこまで売主が持つかは、契約の「更地」の中身で決まります。別途の欄の内訳は更地渡しはどこまで?でお伝えしています。

相続した空き家の3,000万円控除(相続人が3人以上なら、1人あたり2,000万円まで)など税金の違いは解体費用は誰が払う?の記事、1月1日をまたぐ固定資産税は更地の固定資産税の記事でお伝えしています。ご実家が昭和56年5月31日以前に建てられた家なら、この特例が関係するかもしれません(要件はほかにもあり、使えるかどうかは税理士か税務署でご確認ください)。

📅 更地渡しにするなら、引き渡しの日から逆算します

更地渡しでは、引き渡しの日までに、次のことを売主の側で済ませます。順番に並べると、こうなります。

更地渡しで売主の側がすること(引き渡しの日から逆算)

解体業者と契約する

工事の中身と見積もりを確かめて契約します。見積書の「別途」の欄も、このときに確かめておくと、あとで慌てずに済みます。

アスベスト(石綿)の事前調査の説明を受ける

解体の前には、元請業者が、石綿を含む建材が使われているかを調べ、結果を書面で発注者に説明します(原則として工事の開始の日まで。大気汚染防止法)。発注者は、調査の費用を適正に負担するなどして協力します。吹き付けの石綿や、石綿を含む断熱材・保温材・耐火被覆材が使われている建物では、その作業を始める14日前までに、発注者が届け出る必要があります。

家の中の物を片付ける

家庭から出た家財は、解体で出るものとは別の扱い(一般廃棄物)で、解体の前の片付けは建物の所有者の責任とされています(環境省の通知)。福岡市は、家財などの回収を人に頼むなら、市の一般廃棄物収集運搬業の許可業者に頼むよう呼びかけています。

建設リサイクル法の届出をする

床面積の合計が80㎡以上の建物の解体では、発注者が、工事に着手する日の7日前までに届け出ます。届出先は、福岡県内なら、福岡市・北九州市・大牟田市・久留米市の工事はそれぞれの市、そのほかの市町村の工事は県の県土整備事務所です(福岡県の案内・福岡市の案内)。

解体工事

当社が過去に請け負った建物の解体180件では、着工から完工までの日数の中央値(真ん中の値)は17日、30日以内が92%でした。建物の大きさや天候、地面の下から出てくるもので変わります。解体は、音や振動、ほこりで、どうしてもご近所にご負担をおかけする工事です。だからこそ工事の間は、養生・散水・こまめな清掃を丁寧に続けます。

建物滅失登記をする

建物がなくなったことを登記に反映してもらう、法務局への申請です。登記上の所有者が、滅失の日から1か月以内に申請します(不動産登記法第57条)。解体業者から交付される建物滅失証明書を付けます(法務局の記載例)。登録免許税はかかりませんが、書類づくりを専門家に頼めば、その費用は別にかかります。

※ 1月1日に建物があるかどうかで、翌年度の土地の固定資産税が変わります。解体と引き渡しが年をまたぐときは、更地の固定資産税の記事もご覧ください。

建物滅失証明書を受け取ったら、そのまま登記の段取りに入れておくと、1か月の期限に追われずに済みます(登記上の所有者が正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象です。不動産登記法第164条)。

現況渡しと更地渡しで、解体まわりの手続きをする人が変わることを示す図。更地渡しでは売主が引き渡しの前に、業者との契約と石綿の説明・家財の片付け・届出・解体・滅失登記を行う。現況渡しでは、引き渡しの後に買主が行う。家財を残すかどうかは売買契約で決め、滅失登記は解体するときの登記上の所有者が行う。
引き渡しの前に済ませるか、後に回すか。家財の扱いは契約で、滅失登記は建物の登記の名義で決まります(当社作成)

✍️ 契約書で決めておくこと

現況渡しでも更地渡しでも、次の点は契約書で確かめておきたいところです。

決めること理由・確かめる点
引き渡しの時期宅建業者が関わる売買では、契約の書面に書かなければならない事項です。更地渡しなら、解体の工期と滅失登記の時間を見込んで決めます
「更地」の中身何を残し、何を撤去するか。書かなければ範囲は決まりません
地面の下から何か出てきたとき誰が、どこまで撤去するか。費用はどちらが持つか
間に合わなかったとき期日に引き渡せないと、期限を決めて求められた(催告された)うえで解除されたり、決めてある違約金を求められたりすることがあります
買主が解体して、相続した空き家の特例を使うとき国土交通省が特約の例を示しています(解体の期日、特例に必要な書類の受け渡し、できなかったときの賠償など)
家財と、引き渡しまでの建物の扱い現況渡しで家財を残すなら、そのことを書きます。引き渡しの前に建物が傷んだときの扱いも確かめます

買主が解体する形で相続した空き家の特例を使う場合、特例に必要な確認書は、解体についての特約がなくても発行できるとされています。ただ、買主の協力が欠かせないため、国土交通省はトラブルを防ぐ観点から、特例に関する特約を確認事項にしています。詳しくは古家付き土地の解体費用は誰が払う?をご覧ください。

契約書にどう書かれているかは、署名の前に説明を受けて確かめてください。特約(契約に付け加える個別の約束)も同じです。当社が仲介する場合は、解体の段取りと契約の条項の関係を整理したうえでご説明しています。

🏠 現況渡しを選ぶときに確かめること

現況渡しは、家を次のオーナー様へそのまま引き継ぐぶん、売主の方の手間は少なくなります。その代わり、次のことを契約で決めておくと、あとで慌てずに済みます。

一つは、建物の不具合の責任です。建物を残して引き渡すので、雨漏りや傾きなどが後から見つかったとき、売主がどこまで責任を負うかを決めておきます。ただし、責任を負わない取り決めをしても、知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法第572条)。売った後の建物の不具合をめぐるトラブルは古家付き土地の売却で起きやすいトラブルでお伝えしています。

もう一つは、引き渡しまでの間に建物が傷んだときの扱いです。たとえば、引き渡しの前に台風で建物が大きく傷んだ場合です。民法では、売主・買主どちらのせいでもない滅失や損傷の負担は、引き渡しを境に買主へ移ります(第567条)。引き渡しの前に、どちらのせいでもなく売主が引き渡せなくなったときは、原則として買主は代金の支払いを拒めます(第536条)。つまり、引き渡すまでの建物のことは、売主の側の心配ごとです。台風の多い時期をまたぐときは、契約書の取り決めも確かめておくと安心です。

家財を残したまま引き渡すなら、そのことを契約書に書いておきます。引き渡しの後に解体するのは買主なので、残した家財を買主が片付けることに合意しているかを、あいまいにしないことが大切です。
あわせて、建物の登記の名義も確かめておきます。滅失登記の義務を負うのは、解体するときの登記上の所有者です。建物の名義が売主のまま解体されると、条文の上では売主の側に義務が残ります。

❓ よくあるご質問

Q. 更地渡しの届出は、売主が自分で役所に行くのですか

届け出る義務があるのは発注者(更地渡しなら売主)です。届出は、行政書士に頼むこともできます。代理人が届け出るときに委任状が要るかどうかは、窓口ごとに扱いが違うので、届出先で確かめます(国土交通省『建設リサイクル法 質疑応答集(案)』・2023年の資料)。

Q. 登記の名義が亡くなった親のままです。滅失登記はできますか

できます。登記上の所有者が亡くなっている場合、相続人が申請することができます(不動産登記法第30条)。佐賀地方法務局のチェックリスト(建物滅失)では、相続人の1人からの申請が可能とされていて、亡くなったことや相続人であることが分かる戸籍などを付けます。解体すること自体についての相続人どうしの同意は、別に整えておきます(古家付き土地の解体費用は誰が払う?の「兄弟姉妹で話がまとまらないとき」)。

Q. 売る前に、実家の名義を相続人に変える必要はありますか

売るときは、売る不動産の相続登記(現況渡しなら建物も)で名義を整えてから進めるのが前提です。また、相続登記そのものが義務になっていて、相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請することになっています。令和6年4月1日より前に始まった相続で、まだ相続登記をしていない場合は、令和9年3月31日までです(法務省「相続登記の申請義務化」)。

📝 この記事のまとめ

  • 「現況渡し」「更地渡し」は法律の言葉ではなく、中身は契約書で決まります
  • 更地渡しでは売主が解体の発注者になり、届出・家財の片付け・建物滅失登記などが売主の側に来ます(滅失登記の義務は、登記の名義で決まります)
  • 比べるときは、両方の売値の見込みと解体の見積もり(「別途」の欄も)をそろえて、手元に残る額を並べます
  • 更地渡しは、引き渡しの日から逆算して段取りを組みます(届出は着工の7日前まで、石綿の届出が要る建物は作業の14日前まで、滅失登記は滅失の日から1か月以内)
  • 引き渡しの時期、「更地」の中身、地面の下から出たとき、間に合わなかったときを、署名の前に確かめます

古家付き土地を売るときに読む3本(この順がおすすめです)

① 現況渡しと更地渡しの違い|誰が何をするか(この記事) ― 渡し方を選ぶ

② 更地渡しはどこまで?庭木・ブロック塀・地中のもの ― 撤去の範囲を決める

③ 古家付き土地の売却で起きやすいトラブル|防ぎ方 ― 契約書を確かめる

現況渡しにするか、更地渡しにするか。長くご家族を支えてきた家とのお別れの段取りを、解体と売却の両方から一緒に整えます。

本記事は2026年度の制度に基づく解説です。最新情報は各公式サイトでご確認ください。本記事は、2026年9月時点の法令(民法・宅地建物取引業法・不動産登記法・建設リサイクル法・大気汚染防止法)と、国土交通省・環境省・法務省・福岡県・福岡市・法務局の資料に基づく一般的な説明です。届出の窓口や手続きは市町村によって異なります。個別の契約内容は、契約前に不動産会社からの説明でご確認ください。見積書と工期の数字は、当社が2026年3〜8月に作った建物解体の見積書16件(案件ごと)と当社の工事記録によるもので、ほかの会社や時期に当てはまるとは限りません。最終更新日:2026-09-25。

売却のご相談や査定については、不動産事業のページもあわせてご覧ください。

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