こんにちは。株式会社サンミライ開発、不動産事業部の藤木です。
親御さんが認知症と診断された。施設に入り、実家は空き家になった。家の名義は親御さんのまま。そんなとき、「実家を売ることはできるのだろうか」と考える方は少なくないと思います。
結論から申し上げます。
- 認知症と診断されたことだけで、売れなくなるわけではありません。問われるのは、契約をするその時に、ご本人に判断する力(意思能力)があるかです
- ご本人が判断できない状態なら、家庭裁判所に成年後見の申立てをして、選ばれた後見人が、ご本人に代わって売ることになります
- 後見人がご本人の住まいを売るには、さらに家庭裁判所の許可が必要です。施設に入っていて今は住んでいない家も、この「住まい」に入ります
ここでお伝えするのは、2026年9月時点の現行の制度です。令和8年に法律が改正され、制度が変わる予定ですので、最後に節を分けて書きます。親御さんがお元気なうちにできることは、実家じまいは親が元気なうちにをご覧ください。
① まず、契約の時の判断能力が問われます
家が親御さんの名義なら、売主は親御さんです。親御さんの意思によらずに、ご家族だけで売ることを決めることはできません。
民法には「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」とあります(民法第3条の2)。家を売る契約も同じです。
この条文で問われるのは、意思表示をした時の能力です。認知症と診断されたら、その時点で一律に契約ができなくなる、という書き方ではありません。一方で、どういう状態なら意思能力がないとされるのかは、条文には書かれていません。
親御さんの判断能力に不安があるまま売買を進めると、あとで「契約の時に意思能力があったのか」が問われるおそれがあります。迷うときは、契約の前に専門家に相談しておくと安心です(相談先は最後のよくあるご質問にまとめています)。
② 判断できない状態なら、成年後見の申立てをします
裁判所の案内では、成年後見制度は、認知症などで物事を判断する能力が十分ではない方について、本人の権利を守る人(後見人など)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度、とされています。判断能力の程度によって、3つの区分があります(現行の制度)。
| 区分 | 対象になる方(裁判所の案内の言葉) |
|---|---|
| 補助 | 判断能力が不十分な方 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な方 |
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 |
後見の場合、裁判所の案内(後見開始)によると、家庭裁判所が選んだ成年後見人は、本人の財産に関するすべての法律行為を、本人に代わって行うことができます。
申立てのときに知っておきたいこと
- 申立先は、本人の住所地の家庭裁判所です(親御さんが施設に入っている場合など、どこが管轄になるかは家庭裁判所にご確認ください)。申立手数料は収入印紙800円分、登記手数料は収入印紙2,600円分です
- 本人の精神の状況について鑑定が必要な場合があり、その費用を申立人が負担することがあります
- 申立てから審判(家庭裁判所の決定)までは、おおむね1か月から2か月程度かかります(本人の精神の状況を調べる鑑定を行う場合は、さらに期間が必要です)
- 申立書に候補者として書いた方が、選ばれるとは限りません。弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれることもあります
- 後見などが始まると、申立てのきっかけになった用事(裁判所の案内では、預貯金の解約・遺産分割・保険金の受取などが例に挙がっています。家の売却も同じです)が済んだあとも、本人の能力が回復するか、本人が亡くなるまで続きます。ご家族の意思や本人の希望でやめることはできません
出典:裁判所「後見開始」・裁判所「成年後見制度の概要」。後見人を監督する人(後見等監督人)が選ばれた場合、その報酬は家庭裁判所が決め、本人の財産から支払われます。
最後の点は、家を売るためだけに制度を使おうと考えている方にとって、大事なところです。売ったあとも、制度の利用は続きます。申し立てる前に、そのことをご家族で知っておきたいところです。
③ 後見人が住まいを売るには、家庭裁判所の許可が要ります
後見人が選ばれても、それだけで家を売れるわけではありません。裁判所の案内「居住用不動産の処分についての許可」では、成年後見人などが本人に代わって本人の住まい(居住用不動産)を売ったり解体したりするには、家庭裁判所の許可が必要で、許可を得ないで行った場合は無効になる、とされています。
ここでいう居住用不動産には、今住んでいる家だけでなく、本人が病院や施設に入っていて今は住んでいないが、将来住む可能性がある家や、入所前に住んでいた家も含まれます。「親は施設に入ったから、実家はもう住まいではない」とは、ならないということです。
また、許可が必要なもの(案内の言葉では「処分」)には、売却のほか、抵当権の設定、賃貸借契約の締結・解除、建物取り壊しなども入ります。売る前に解体して更地にする場合も、許可の対象になります。
| 項目 | 裁判所の案内の内容 |
|---|---|
| 申し立てる人 | 成年後見人・保佐人・補助人(保佐人と補助人は、不動産を売るなどの代理権が与えられている場合に限る) |
| 申し立てる先 | 後見開始(保佐開始・補助開始)の審判をした家庭裁判所 |
| 手数料 | 収入印紙800円分 |
| 主な資料 | 処分の必要性を示す資料(契約書の写し、対象の不動産の評価証明書、売却なら不動産業者が作った査定書)、対象の不動産の登記事項証明書など |
資料の例として、契約書(写し)や、売却の場合は不動産業者が作った査定書が挙げられています。どの段階で申し立てるかは、司法書士・弁護士や家庭裁判所にご確認ください。許可が出るまでの期間や、許可が出るかどうかの基準は、この案内には書かれていません。売る時期は、ゆとりを持って考えておきたいところです。
🗓️ 売るまでの流れ(現行の制度で、後見を使う場合)
親御さんが判断できない状態で、実家を売るまで
いまの状態と名義を確かめる
家の名義が親御さんか、親御さんがご自分で判断できる状態かを確かめます。迷うときは、司法書士や弁護士に相談します。
後見開始の申立てをする
本人の住所地の家庭裁判所に申し立てます。審判まではおおむね1か月から2か月程度、鑑定があればさらにかかります。
後見人が選ばれる
候補者が選ばれるとは限りません。後見は、売ったあとも続きます。
許可の申立てに使う資料をそろえる
裁判所の案内では、契約書の写しや、売却の場合は不動産業者が作った査定書などが資料の例に挙げられています。
住まいを売るための許可を申し立てる
後見開始の審判をした家庭裁判所に申し立てます。許可を得ないで売ったり解体したりすると、無効になります。
各段階の期間は、ご事情によって変わります。個別の手続きは、司法書士・弁護士・家庭裁判所にご確認ください。
④ 任意後見の契約をしている場合
親御さんがお元気なうちに「任意後見契約」を結んでいた場合は、流れが違います。法務省の案内では、任意後見は、本人に十分な判断能力があるときに、あらかじめ任意後見人になる方や任せる事務の内容を決めておき、判断能力が不十分になった後に、任意後見人が本人に代わって行う制度です。契約は、公証人が作る公正証書で結びます。
裁判所の案内では、任意後見契約の効力は、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときから生じます。契約があるだけで動き出すのではなく、判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます(法務省の案内)。また、任意後見人ができるのは契約で決めた範囲の代理で、本人が結んだ契約を取り消すことはできません(法務省の案内)。
任意後見契約は、本人に十分な判断能力があるときに結ぶものです。契約書が見つかったら、どこまで任されているかを確かめておきます。
⚖️ 令和8年の法改正で、変わる予定のこと
成年後見制度は、令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布された改正法で、見直されることが決まっています(法務省の案内)。主な点は次のとおりです。
- 後見と保佐の制度を廃止して、「補助」の制度に一元化し、本人に必要な範囲で使えるようにする
- 判断能力を欠く常況にある方は、重要な財産行為の取消権の仕組み(特定補助)を選べる
- 利用の必要がなくなったときに、制度の利用を終えられる
- 任意後見では、家庭裁判所が明らかに監督の必要がないと認めるときは、任意後見監督人を選ばずに、家庭裁判所が直接監督できる
施行日は、「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされ、まだ決まっていません。それまでは、この記事の①〜④でお伝えした現行の制度が使われます。
改正後も、住まいを売るときの家庭裁判所の許可の仕組みは残る見込みです。法令検索(e-Gov)に載っている改正後の民法(まだ施行されていないもの)では、住まいの売却などについて代理権を与えられた補助人が、それをするには、家庭裁判所の許可を得なければならない、という条文(第876条の13)が置かれています。ただし、法務省の改正の概要の資料では、この点は確かめられませんでした。施行が近づいたら、あらためて確かめてください。
👣 お一人でもできること
今日からできる確認
全部を一度にしなくて大丈夫です。気になるところから一つずつ確かめてください。
❓ よくあるご質問
Q. 施設に入った親の家を、先に解体しておいてもよいですか
家が親御さんの名義なら、解体を決めるのも名義人である親御さんです。後見人が代わりに進める場合は、裁判所の案内のとおり、施設に入って今は住んでいない家の建物取り壊しも、家庭裁判所の許可の対象です。ご家族の判断だけで進めず、まず手続きを確かめてください。
Q. 家族が後見人になれば、手続きは早く済みますか
申立書に候補者として書いても、選ばれるとは限りません。また、後見人が選ばれたあとも、住まいを売るには別に家庭裁判所の許可が要ります。期間の見通しは、ご事情によって変わりますので、司法書士・弁護士や家庭裁判所にご確認ください。
Q. 相談はどこにすればよいですか
手続きの判断は、司法書士・弁護士・家庭裁判所の領域です。空き家や実家の売却そのものの相談先は、空き家・実家の相談先の記事でまとめています。
📝 この記事のまとめ
- 認知症と診断されたことだけで、一律に売れなくなるわけではありません。問われるのは、契約の時の意思能力です
- ご本人が判断できない状態なら、家庭裁判所に成年後見を申し立て、選ばれた後見人が代わりに売ります。審判まではおおむね1か月から2か月程度です(鑑定があれば、さらにかかります)
- 後見人が住まいを売ったり解体したりするには、さらに家庭裁判所の許可が要ります。施設に入っていて今は住んでいない家も含まれます
- 現行の制度では、後見は売ったあとも続き、ご家族の希望でやめることはできません
- 令和8年の改正で制度は「補助」に一元化される予定です(施行日は未定)。それまでは現行の制度です
親御さんが長く暮らし、守ってきた家です。手続きは重く感じられますが、順番が分かれば、ご家族で話し合えることも見えてきます。どこから確かめればよいか分からないときは、いまの状況を伺うところから、一緒に考えます。
本記事は2026年度の制度に基づく解説です。最新情報は各公式サイトでご確認ください。本記事は、2026年9月時点の法令と、裁判所・法務省の案内に基づく一般的な説明です。個別の手続きや、契約の時の判断能力については、司法書士・弁護士・家庭裁判所にご確認ください。最終更新日:2026-09-30。
売却のご相談や査定については、不動産事業のページもあわせてご覧ください。